髪は細くて繊細に見えますが、意外と柔軟性と弾力があって、特に縦に引っ張る力にはかなり強いんです。
健康な髪1本で40gの力に耐えられます。
髪全体は平均で10万本!そのうち健康で丈夫な髪が平均で8万5千本。この8万5千本を束ねればなんと3tのものをつり下げられることになるのです!
ラプンツェルも本当に可能なんですね。
この強靭な髪を構成しているのが、髪内部を構成している細胞たちの結合です。
細胞同士は、実に様々な種類の結合でお互いを立体的なつながりで構成しています。
髪のダメージや刺激と良くいいますが、これは、さまざまな外部刺激でこれらの結合を弱めたりして、その結合を解きほぐすことを指します。ただし、タンパク質のアミノ酸同士の結合とは縦に横にと良くできていて、主要な結合さえ無事ならば、一個や二個の結合を解いたって直ちに髪は崩壊したりはしません。それどころか復活する結合さえあります。例えるのならば何本もの手で固く抱きしめ合っているといったところでしょうか?
この強固なつながりのしくみを解きほぐすべく、髪内部の細胞の構造から見ていきましょう。
Contents
毛髪内部の4つの結合
髪はケラチンと呼ばれる材料でできています。ケラチンは数種のアミノ酸物質で構成されています。アミノ酸物質と言うと、一種類のような気もしますが、
アミノ基(NH2)とカルボキシル基(COOH)を1つの分子の中にあわせ持つ物質
のことです。何のことやら分からなくて全く問題ありません。
要するに、ひとくちにアミノ酸といっても、数十種類あるということです。
髪の毛の主成分であるケラチンに含まれるアミノ酸は、多い順で
シスチン
グルタミン酸
グリシン、、、
と、つづきます。
タンパク質は、これらを代表する18種類のアミノ酸が、様々な組み合わせで組合わさって複雑に結合し、その結果、様々な特徴を織りなしているワケです。
髪の毛の主成分、ケラチンは、硫黄を含んだタンパク質で、人体では、髪以外に、爪や角質などの皮膚の強固な材料ともなっていて、他の動物では角、蹄、鱗、甲羅、羽毛などにもケラチンを主成分としているものがあります。
角と羽毛の固さや丈夫さを比べると、ずいぶんな差がありますよね?ケラチンは幅広い強固さと弾力があるのが特徴です。
幅広い強固さを持つケラチンが、髪の毛を形成した時に強固で弾力がある理由は、数えきれないほどのケラチンたちが絡み合ってお互いに、それこそ、あちらこちらで結合をしているからです。
ではどんな種類の結合を織りなしているのでしょうか?
それらの結合は主に4種類に分けられます。
- ペプチド結合
- 水素結合
- イオン結合
- シスチン結合
です。
それぞれ見ていきましょう。
髪のメインの結合
ペプチド結合
ペプチド結合は、アミノ酸物質同士をつなぐタンパク質の基本的な結合です。髪にとって見れば、一番大切なまさに生命線です。髪は、この結合により、一本一本のケラチンをなすのです。とても強力な結合で、螺旋型に縦に連なっており、髪が縦の引っぱりに強い理由はこれです。
これに対してこの一本一本のケラチンを、更にはケラチンの束を、このあとご紹介の他の結合が、補強しているといえます。ペプチド結合にも、縦の連なりだけでなく、補強のための結合が存在しているようですが、そんなに数は多くありません。ちなみに、これが多い人はパーマがかかりにくいと言われています。
また、他の結合と違って、いったん切れてしまうと二度ともとには戻りません。
もしも切れてしまえば、いわゆる、枝毛となってしまいます。
ご想像の通り。もう戻りませんよね?まさに生命線です。
髪を補強するための結合
水素結合
水素を含む分子が持っている、電気的な力で結びつく結合です。
代表的な物で、水『H2O』ですね。水の場合、Hと2つのOでの、電子の取り合いの結果、極性を持って、Hがプラス、Oがマイナスの力を帯びて他の水とくっつこうとします。
髪の中のアミノ酸物質には、水素結合でお互いを連結補強している部分があります。
この水素結合は、連結部分を水にぬらせば、水の極性により、髪同士の静電気的な結合に介入して、簡単に切断します。でも、乾燥させるなりして水を失くしてあげると、邪魔者のいなくなった髪同士は、また静電気的にくっつきます。つまり、簡単に解けて、簡単にくっつくということです。
湿度程度にも影響を受ける、極めて弱い結合ですね。
雨の日に、湿度が高くなって、スタイルが決まらないのは、水分子の静電気力に髪の水素結合がじゃまされるためであることが多いです。
イオン結合
陽イオン(+)と陰イオン(-)による結合です。
塩水などが身近にあります。水の中での、電子のやり取りの結果、マイナスの電荷を持ったCl−とプラスの電荷を持ったNA+が静電気的に結びついたものがNACl(塩化ナトリウム)です。
水素結合と同じく、アミノ酸同士にこの結合を持った部分があります。
一部のシャンプーなど、更に強い電荷を持った分子が介入すれば切断できます。
これがいわゆる、硫酸系シャンプーが刺激が強いとされる所以です。
シスチン結合
シスチン結合とは、髪に含まれる結合の中でも数が多く、全体の力を考えれば、ペプチド結合同等のかなり強固な結合です。システインと呼ばれるアミノ酸同士が結合し、ペプチド結合を補強するものがシスチンと呼ばれていて名前の由来になっています。
髪の主成分、ケラチンに最も多く構成されている物質がシスチンです。
『最も多い』のですから、結合の多さもうなずけますね。
更に、シスチン結合は、ねじり合わさったケラチン同士の連結にも大きく携わっています。
ラプンツェルを可能にしているのは、強固なペプチド結合を横に縦に更には束にと補強したシスチン結合との連携にあります。
また、シスチン結合は、一般的には、縮毛矯正で利用するのでおなじみです。
還元剤(美容室では1液とか1剤と言われるものです)で切れて、酸化剤(同じく2液とか2剤)により再結合させることが簡単にできるので、パーマはこの性質を利用して行われています。
これは、シスチン結合というものが、システイン同士の『酸化』と呼ばれる現象によって、シスチンとなり結合していることを利用しています。一度『還元』と呼ばれる現象を起こし、システインに戻し、形を整えて、再び『酸化』によって、シスチンに戻すというわけです。いうなればシステイン同士のボタンのかけ直しと言ったところです。
もうちょっと一般的な言い方をすると、縮毛矯正やパーマはさまざまな種類がありますが、シスチン結合をいったん切って、形を整えてから再結合させることで好きなヘアスタイルを定着させる、というのが基本ということです。
ただし、パーマや縮毛矯正は、形を変えた以上、結合を切る前と再結合後では、掛け違えたボタン、あるいは、かけ損ねた(余った)ボタンがどう影響するか分かりません。これが、縮毛矯正やパーマによる主なダメージになりえます。
縮毛矯正やパーマは髪を傷める。傷んだ髪は、守ってあげよう。
前述の通り、髪の内部のタンパク質が強固に構成されているのはシスチン結合によるものが大きいです。これがあるからこそ、シャンプーなどの界面活性剤がいくら洗浄力が高いといっても、髪内部のタンパク質まで溶かして洗い流してしまうようなことはありません。
ところが、縮毛矯正などのパーマを行うと、還元剤によって切る前と酸化剤による復活後では、少なからずシスチン結合が弱くなります。
その理由は、シスチン結合の掛け違えです。
再結合の時に元とは違うシスチンと結ばれることがあります。そうなると、上図のように単純に結合数が5から3へ減るようなことが起こりえます。これが、目に見えないダメージの一つとなります。見た目に変化はないようでも、パーマをかけたあとは、横のつながりが本来より弱くなっているのです。
ダメージを負った髪は、刺激の低いシャンプーがおすすめ!
髪はケラチンという硬いタンパク質でできていますから、本来の健康な髪ならば比較的刺激の強いシャンプーを使ったとしてもビクともしません。しかし、パーマをかけた髪は髪内部の細胞の掛け違いにより、シスチン結合が弱っています。更には、酸化剤や還元剤などの薬剤が髪内部に残ったまま、と言ったことも大いに考えられます。そんな弱った、危険な状態で、いつものシャンプーやトリートメントをすることは実はかなり危険なんです。
冷静に考えれば、髪はアルカリに偏り、シスチン結合を解いたり、くっ付けたりする行為をほんの短時間で行ってしまう薬剤って、、、凄まじいことですよね?それでも、美容院というプロのいわば研究所で高いお金を払ったのだから、何となく安心と思ってしまう場合がほとんどかもしれません。
私もそうです。美容院で縮毛矯正オーダーすると、必ず店員さんが、『縮毛矯正は、強いお薬を使用しているんで、いっしょにトリートメントはいかがですか?』と必ず聞かれていました。当然、勧められるがままセットでお願いしていましたが、実際は逆効果であるということが分かりました。
シスチン結合を解いたり、くっ付けたりする強烈な薬剤はそうそう簡単に落ちるはずがなく、場合によっては数週間髪に残留することがあります。
そのことを考えると、縮毛矯正後は、髪は弱り切っているということより深刻な、危険な薬剤を含んだ状態といえます。これに必要な処置というより、処方は、トリートメントではありません。トリートメントでは処方どころか、薬剤ごとコーティングしてしまい、洗い流しに時間がかかるといった恐れがあります。
そうではなく、縮毛矯正後に優先すべきは、アルカリにより弱ったキューティクルを、なるべく摩擦や刺激ダメージを与えないように弱酸に戻しつつ、髪に残った残留薬剤を無効果するなり洗い流すことを心がけることです。
となると、美容室では解決できる問題ではありません。帰ってからの、お家シャンプーこそ処方として有効です。
そこでオススメなのが、低刺激な弱酸性シャンプーです。
刺激の低いシャンプーでオススメなのはアミノ酸シャンプーです。
アミノ酸シャンプーは髪の4つの結合のうち、イオン結合に低刺激だからです。
さらに、弱酸性であるものが重要です。カラーリングや、パーマの場合、薬剤浸透ためにどうしても髪がアルカリによります。美容室でトリートメント(これにより弱酸性に調整している可能性が強いので)を断ったのならばなおさら弱酸性にこだわりましょう。
縮毛矯正などのパーマ後は、とにかく髪が弱っていて、下手なことをすれば、あからさまに悪影響を受けやすいです。よかれと思ってやったことが、裏目に出ることも多々あります。トリートメントも下手にするよりはしない方が良いほど注意が必要です。
まず、シャンプーにおいては低刺激を意識しましょう。